【2018年】消防・警察、災害救助の各現場でのドローン活用を紹介

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こんな感じの内容です!

災害救助のために全国の消防・警察に導入が進むドローン。実際のところ、ドローンの何が救助活動に有効で、何が出来ないのでしょうか?市街地火災、水難事故、森林・林野火災、山岳救助、大規模広域災害それぞれでのドローンの有用性について紹介していきます。

目次

近年、災害救助現場へのドローン導入が進んでいます。実際に、総務省消防庁はさいたま市、千葉市に加えて18政令都市に対してドローンの導入予算を検討しています。

参考:ドローン、18政令市へ追加配備

しかしながら、具体的にどのようなケースでの現場活用が期待されているのでしょうか?

本記事では、DJIの産業・災害救助用機体であるMatrice200シリーズの紹介を交えながら、

市街地火災、水難事故、森林・林野火災、山岳救助、広域災害それぞれでのドローンの有用性について紹介していきます。

 

広まるドローン活用

近年、災害救助用の現場へのドローン導入が進んでいます。代表的なのは、2018年1月、総務省消防庁が作成したドローンの利用手引書です。この手引書によって、総務省はドローンの活用の基準について公の基準を明らかにしました。

参考:総務省消防庁、全国消防本部向けにドローン防災利用手引書を作成

 

海外の事例で言えば、2017年12月に発生したカルフォルニア大火災では、火災現場の状況調査のために火の中にドローンが出動し、消火活動における状況調査のために大活躍しました。また、日本でも栃木県にて山林に立ち入った男性から救助要請があり、ドローンで発見するといった出来事がありました。(なお、男性は既に死亡していた模様です)

それに対応するように、ドローンの最王手メーカーDJIは、対風・耐水・防塵性に優れた機体であるMatrice200シリーズの販売を行っております。大きな特徴としては、赤外線カメラを搭載した熱探知が可能なことであり、これによって火災の状況を把握したり、目視だと発見しづらい人の救助活動にを発見するといった事例が数多く起こっています。

 

実際に東海地方の3自治体(静岡県焼津市危機対策課、愛知県豊川市防災対策課、と志太消防本部)がDJIの産業用ドローンプラットフォームを、防災や捜索救助活動に試験運用した実績が有り、Matrice200シリーズが実際の災害現場で役立つことが現場の消防士により明らかになりました。

 

市街地での火災

消防でのドローンの活用と聞いて、まず思い浮かぶのは市街地での状況確認に使用するという活用法ではないでしょうか?しかしながら、この活用法には課題が多く、(特に都市部における)市街地火災に限って言えば活用を検討している自治体の数はそれほど多くないのが現状です。

 

消火活動の指揮

火災発生時、消防車が走る前に「指揮車」と呼ばれる現場の状況確認のための車が現場を走ります。その車にドローンを搭載し、消防車が到着するまでに初動で現場の情報収集を行うという活用です。

指揮車の到着から消防車の到着までの時間は約10分前後です。その間にドローンで周辺情報を集め、消防活動の方針策定を完了した上で、最適な形での消防車の配備と作戦展開を考えるには十分な時間と言えます。それゆえ、消火活動全般に関して言えばドローンの活用は有効であると言えます。

しかしながら、市街地などの建物が密集した地域では、逆にドローンを電線に当ててしまったり、壁にぶつけたり、火災で発生した風によって墜落させてしまうリスクがあります。市街地は基本的に人口密集地域での飛行ということを考えると、ドローンが墜落して周辺の住民に二次被害を及ぼす可能性は捨てきれません。それは、100%の安全性を求める災害救助隊員にとって非常に大きな課題となっています。

建物の消火活動にドローンが役立つケース

建物の消火活動に使用するのであれば、

  • ①周辺に建物が密集しておらず
  • ②人口の少ない地域
  • ③それなりの大きさがある建造物、もしくは火災が広域に渡っていること

 

に活用が限られるでしょう。③に関して言えば、そもそも建物が小さければ、目視で確認出来てしまうのでドローンの必要が無い場合もあります。

 

裏を返して言えば、建物の火災消火の現場でドローンが役立つのは

  • ①都市部ではない、地方のエリアの火災であること
  • ②墜落して危険が及ばないよう、周辺住民の避難させられること
  • ③初動で現場確認を目視で行うには、建物が大きい(もしくは火災が広範囲に渡っている)

 

埼玉県のアスクル工場で発生した火災は、そのモデルケースと言えます。

「畑や田んぼに囲まれた地帯の真ん中に立つ工場」というケースは①、②の条件を満たしています。また、工場の大きさの一辺が100m近くあったということもあり、目視での初動確認が難しい大きさでした。こうした条件が整い、さいたま市は日本で唯一火災現場で実際にドローンが活用されたモデルケースとして成り立ちました。

この事例が、総務省消防庁は全国の政令都市にドローンの導入を決める発端となったとも言えるかもしれません。

 

鎮火後の状況確認

市街地における家屋等の鎮火後の状況確認として、ドローンを活用したいという向きもあります。その際の活用ニーズは大別して3つあり、ドローンに搭載可能な『赤外線カメラ』が重要な役割を担っています。

想定されるドローンの活用としては主に3つあります。

  • ①上空から、屋根を透過しての屋内に残り火が無いかを確認
  • ②壁の中に火が残ってることがあり、人力で叩いて壊して残火確認することがあるので、壁を透過して中の火をチェック
  • ③ドローンが鎮火した屋内に入り込み、中の残り火を確認する(同時に有毒ガスが屋内に残っていないかの確認)

 

上記のような需要が消防活動においてはあります。しかし、この3点に関してはどれも困難であると言えます。

 

①、②に関して言えば、赤外線の性質上、熱源を透過することができないため不可能と言えます。

確かに残り火などの熱源が屋根などに近ければ、熱源からの放射の影響を受けて屋根に温度が反映されるので確認が可能です。しかしながら熱源と屋根の間に距離がある場合は赤外線での探知は不可能です。ちなみに、消防用のヘリコプターなどに搭載する赤外線もこちらの性能は有しておりません。

 

③に関して言えば、Matrice200シリーズで可視画像と赤外線の両方を確認しながらであれば不可能ではありません。

しかし、DJIが機体の防爆性を保証していないため、ガスを静電気等で発火させ、2次災害を生む可能性がゼロではなく、現在ですと推奨出来ません。

また、ガス検知用の赤外線は、用途が特殊なためジンバルの自作が必要であり、通常の赤外線カメラであるXTでは計測は不可能です。

 

河川・海での水難事故の捜索・救助

ここまで、市街地における家屋等でのドローン活用が比較的難しいという話を挙げてきました。一方で、活用が期待できるのはこちらの河川での救助・捜索であると言えます。

 

河川に打ち上げられた人の発見

関東に注目して述べると、特に厚木市はドローン導入の先進事例として挙げられています。2017年8月からPhantom4 Proを2機導入し、操縦士も育成も行ったようです。

厚木市は、ドローンの利用を想定している場所として土砂崩れ現場など、二次災害の発生リスクがある場所を挙げています。それに加えて述べているのが、『水難事故現場での広範囲にわたる要救助者の検索』です。ヘリコプターよりも容易で迅速な出動が可能であるため、要救助者の早期発見、被害状況の早期把握が期待されています。

厚木市は相模川に面しており、特に水難事故が多い地帯です。河川の上流などで遭難者が発生した場合にも出動することがあるため、河川付近の捜索の効率化は、非常に効果的だと言えます。また、川岸に打ち上げられた人を捜すという目的であれば、Phantom4 Proは必要十分の機能を果たしていると言えるでしょう。導入にかかったコストを見る際、随意契約が可能な価格帯であるというのも、自治体の導入ハードルを下げてくれます。

 

赤外線を用いた水没者の発見

しかしながら、水難事故の遭難者は必ずしも川岸に打ち上げられているとは限りません。水難事故が発生すると、多くの場合「潜水隊」が出動します。水難事故の被害者は、事故発生後に時間が経つと、溺れて水が体に入り込み「水没」、つまり水中に沈みます。こうなってしまうと、地上での捜索もヘリコプターで上空からの捜索も困難になります。そうして、「潜水隊」が水に潜って地道に水没者を探すこととなります。

赤外線カメラはこのケースにおいて効力を発揮します。水没者の体温が下がりきるまでであれば、上空から赤外線で水中に沈んだ人間の特定が可能です。これをヘリコプターが行うと風圧で水面を波立ててしまい、潜水隊の活動の邪魔になってしまいます。一方ドローンが赤外線での捜査を行うと、迅速かつ容易に周辺の河川(あるいは海)地域一体を捜索可能です。産業・災害用の機体であるMatrice200シリーズは、ここにおいて力を発揮します。

水難者救助用の物件投下

「今まさに溺れている人」に対して、浮き輪などの救援物資を透過するという用途です。技術的に言えば「物件投下」は可能で、今後が期待される領域です。日本における実証実験もなされています。

加えて、海外では実際に水難者の救助に成功したという事例も発生しています。2018年1月、オーストラリアのサウスウェールズ州では、波に飲まれて溺れている男性をドローンからの救命具を投下。救助に成功したという事件がありました。これはドローンによる救助が成功した世界初の事例で、今後もこの領域への導入が進むものと見られます。

この事例では『ちょうどライフセーバーらがドローンを使った救難訓練の準備をしている最中だった』とあるように、すでにバッテリー・操縦士を含めたドローンの準備が偶然にも完了していたことが、事故発生後70秒で到達という結果に繋がりました。水難事故発生時に常にドローンが出動できるような体制と技術の構築が急務です。

 

参考:オーストラリアの海岸でドローンが水難者救助、世界初

 

森林、林野火災

火事が発生するのは市街地だけではありません。いわゆる「山火事」もあります。都市部に居住する方にはイメージしづらい部分がありますが、地方の消防では「森林」「林野」の火災に対して現実感を持って備えを行っています。

消防隊員達は、いざ火災が発生すると谷を越え山を越えて被災現場にまで辿り着かなければなりません。その際に、「自分たちが向かう先で何が起きているのか」を把握するのが困難であるという問題があります。特に、ヘリコプターが容易に出動できる距離にない自治体にとっては大きな問題です。

ドローンで空中から火災の状況確認を行うことで、森林の中でも『被災現場がどうなっているのか』を確認しながら進むことが出来ます。消火活動における方針や進むルートの意思決定に大きく役立つことが期待されています。

また、冒頭でも述べたように、2018年の1月、500棟以上の建物が延焼したカルフォルニアの大火災も、元は森林火災から始まったものでした。この火災では被害状況を確認するためにドローンが数多く飛行し、延焼ルートを正確に把握するのに役立ちました。また、赤外線カメラを搭載したドローンは、まだ延焼の危険が残る場所の特定を行い、消防士が特定した場所の消火を行いました。

 

参考:米国の大規模な山火事で、ドローンが初めて大活躍──進化する「空中消火」が災害対策を変える

日本は森林資源に恵まれている反面、こうした自然災害によるリスクも非常に高いと言えます。地方消防が森林・林野火災の対策に注意を向ける理由も納得できます。

 

遭難者救助(特に山岳地帯)

行方不明者、特に山岳地帯における遭難者の捜索にドローンは有効です。本来であれば捜索が困難な地帯でも、空を飛ぶドローンであれば要救助者を発見するのが遥かに容易になるためです。この遭難者救助用途でのドローン導入は、既に始まっている自治体があります。

2017年3月、栃木県那須町において雪崩事故が発生し高校生ら8人が死亡しました。その際、先ほど挙げたさいたま市消防局がドローンを出動、捜査活動を手伝ったという経緯がありました。それを受けた栃木県警はドローンは2017年12月にドローンを導入。赤外線カメラを用いた雪山での遭難者探索訓練を行っていました。

参考:ドローンで雪山捜索訓練 県警、雪崩事故で導入

その一ヶ月後の2018年1月、山林に分け入った男性からの救助要請があり、栃木県警はドローンを出動させることとなります。もともと雪山での遭難者探索の訓練を行っていた栃木県警は見事山中で倒れている男性を発見。しかし、すでに男性は死亡していました。

このケースでは残念な結果に終わってしまいましたが、『遭難者を迅速に発見出来た』というドローンの緊急出動における有用性を証明する事例となりました。

参考:自殺志願の男性から救助要請 警察のドローンが発見も男性はすでに死亡

 

他の警察・消防におけるニーズとしては、特に山岳地帯での救援物資投下が挙げられます。「山岳地帯で被害者を発見した後、食料などの救援物資を投下する」という活用方法です。

こちらに関しては現在はドローンへの積載量の関係もあり、実用化している自治体は耳にしませんが、現在研究が進んでいる領域です。

このように、警察を中心として遭難者救助に関してはドローンは既に活用が進んでいる状況と言えるでしょう。

 

大規模広域災害

「消防」「警察」のドローン活用事例として、ここまで市街地、河川、森林、遭難者救助といった個別の活用方法を見てきました。

しかし、東京を含めた関東圏の消防や警察は、そんなレベルではない大規模で広範囲に災害が起こるケースを危惧し、備えを進めています。それが年々可能性を高めている『東京首都直下型地震』、そして合わせて起こる『東京湾巨大津波』です。

日本人であれば、東日本大震災の際の光景は誰もが記憶に残っていることでしょう。首都直下型地震が津波までを引き起こすかは未知です。しかしながら、あの悲惨な状況の中で、もしドローンがあれば要救助者を発見し、救えた命があったかもしれません。

関東近郊の消防は、そのケースにすでに頭を巡らせて考えており、大規模広域災害が発生した場合、周辺地域から首都圏に対して応援出動が出来る体制の準備を始めています。その時、首都周辺地域の持っているありったけのドローンが人命救助のために出動するでしょう。

あまりに非常事態ではあり、その時にならないと一体ドローンが何が出来るのかの想定も難しいケースではあります。しかしながら、レスキュー部隊におけるドローンが何かしらの役割を果たせる瞬間であることは、想像に難くありません。首都圏での大規模広域災害に備えて、ドローン導入は進んで行くことが予想されます。

 

まとめ

いかがでしょうか。

ここまで、消防・警察におけるドローンの活用について、「なにが有効で、なにが出来ないのか」という点について考察を進めてきました。

ドローン活用について、主立った官公庁が「まだ実験の段階」という見解を述べる中で、全国の自治体の消防・警察におけるドローン導入の流れは加速しています。そして、実際に有効に機能したケースが続々と現れてきているのは、嬉しいところではあります。

今後は、主要18政令都市への導入によって、ドローンが現場で役に立ったという事例はより増えていくはずです。一方で、その他の地方自治体への導入は、各自治体に任されている状況で、なかなか正しい情報収集が難しいという実情もあります。

弊社ではドローンの正しい知識を広めることを目的に、機体販売〜導入後のトレーニング、購入後のサポートまでを一貫して行っています。

もし不明点等ございましたら、お気軽に問い合わせを頂けますと幸いです。

 

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